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↓制作風景はこちらから
(撮影してもらいました)
防音室は暑い
夏の終わりに完成した自作の防音室。完成直後から感じていましたが、
「とにかく暑い!」
室内は遮音性を持たせるため、気密性を高めており、壁中では断熱材が四方を取り囲んでいます。もともと空気の循環が少ない空間に人間が入ることにより、体温と呼気でさらに高温多湿の空間となります。室内で15分も歌えば、汗でタオルが絞れるほどです。
クーラーを設置するまでは、1曲歌ってはドアを開けて空気を入れ替える、ということを繰り返していました。熱中症怖いですからね、、
完成したその年は、夏の終わりだったため我慢しましたが、(結局10月に入っても暑かったですが、、)今年は夏本番を迎えるにあたってクーラーの設置を試みました。
防音室とエアコン(クーラー)
通常、防音室でのエアコンの設置は、一般住宅に取り付けるような壁掛式のものを取り付けることが一般的です。
しかし壁掛け式のエアコンでは、
・販売されているものは対応畳数が6畳〜
・0.8畳の防音室には強力すぎる冷房能力
・防音室の壁に極力穴を開けたくない
・防音室内のスペースの問題
などがあり、壁掛け式のエアコンは断念しました。
YAMAHAの防音室「アビテックス」でも、1.2畳未満の防音室では、エアコンを設置することができないそうです。
エアコンの仕組み
ここで簡単にエアコンの仕組みを説明します。一般的な壁掛け式のエアコンは、ご存知の通り、室内機と室外機があります。室内機と室外機はホースでつながっており、これらは2つで1つのセットです。
非常に簡単な説明になりますが、エアコンは室内の空気から熱だけを取り除くことによって室内を冷やしています。
室内機で取り込んだ空気から熱を取り除き、取り除いた熱は室外機から外に、熱を取り除いた空気は室内機から室内に戻します。エアコンはこれを繰り返し行うことで室内の熱を外へと排出し、室内を冷やしています。
クーラーの種類
壁掛け式以外のクーラーとなると、選択肢はいくつかしかありません。代表的なものをご紹介します。
ウィンドウエアコン
こちらは壁掛け式のエアコンが取り付けできない部屋のために窓に取り付けることができるようにつくられたクーラーです。室内機と室外機が一体になっており、前面からは冷風が、背面からは熱を排出します。
窓のない防音室では、そもそも取り付けが難しいです。加工して取り付けすることも考えましたが、価格もそこそこ高価であり、また取り付けできたとしても排熱をするために壁に穴をあける必要があり、断念しました。
冷風機(スポットクーラー)
こちらも室内機と室外機が一体となったクーラーです。小型で吐き出し口から冷たい風が出ます。価格はしっかりとしたものだと、安価な壁掛エアコンを購入できるぐらいです。
一番の問題点は、室内機と室外機が一体となっているため、本体から発生する熱を外部に排出することができないことです。
本体からは冷たい風が出ますが、それと同時に熱も排出されます。室内の空気から奪った熱が排出されるのはもちろんのこと、クーラー本体を動かす際に発生した熱も同時に排熱されています。
これではいつまで経っても部屋全体を冷やすことができませんし、密閉された室内では、むしろ温度が上昇しそうです。
製品によっては、別売で排熱用のダクトを購入することができ、本体に取り付けすることによって熱を外部に排出することができるようになっているものもあります。しかしながら、防音室の壁に穴をあけたくないので、選択肢から外しました。
冷風扇
こちらは気化熱を利用した冷房装置です。
水は蒸発(気化)する時に熱を一緒に奪っていってくれます。この仕組みを利用したものが冷風扇です。原理的には打ち水と同じです。安価に購入することができます。
本体から発生する熱も冷風機と比較して少ないのですが、大きな問題があります。水を気化させて温度を下げる仕組みであるため、湿度が上昇します。
暑さは温度と湿度によって体感温度が決まります。梅雨の時期はジメジメしていて、気温以上に暑く感じますよね。湿度が上昇すると実際の温度よりも暑く感じるのです。
防音室内には、コンデンサーマイクなどの音響機材もあり、多湿の環境は不向きです。
防音室にはどのクーラーが適しているか?
こうしてみると狭く密閉された空間に適したクーラーというものは需要が少ないためか、そもそもつくられてなさそうです。
紹介したどの仕組みのクーラーも防音室内で使用するには問題がありそうですね。
私も色々と検討していましたが、狭く密閉された空間で効果が望めそうなクーラーがなく、DIYで自作することにしました。
簡易クーラー自作にあたって
簡易クーラーを自作するにあたって、必要なことを考えました。
防音室で使用するクーラーとして必要な条件は、
・室温が下がること
・湿度が上昇しないこと
・熱を外へ逃す(または発熱しない)こと
・壁に穴をあけずに済むこと
そんなクーラーがあれば最適です。
可能であれば、
・安価である
・駆動音が小さい
・コンパクトである
といった部分も考慮したいですね。
どんな仕組みのクーラーが最適か
上記の条件をもとにどんなクーラーを作るか考えていましたが、ふとあることを思い出しました。
実は私、、、過去にバイク屋で整備士をしていたことがありました。バイクの冷却系の部品なのですがラジエーターというものがあります。
このラジエーターというものは、水(クーラント)を使ってエンジンを冷やす役割に使用されていますが、この仕組みは自作クーラーに使えそうです。
バイクや車以外では、PCの冷却系にも使われています。PC用のラジエーターであれば、加工する必要もなく、そのまま取り付けできそうです。
ラジエーターとは?
ラジエーター本体には、網目状に管が張り巡らせられており、内部を水が通ることができるようになっています。フィンと呼ばれる部分です。
ラジエーターに冷たい水を流し、フィンに風を送りこめば、ラジエーターが空気の熱を奪い、冷たい風が出るというわけです。
DIYで防音室用の簡易水冷クーラーを自作!
水冷式クーラーの仕組みは簡単です。ラジエーターに冷たい水を通し、ラジエーターにファンで空気を送り込む。シンプルな仕組みですね。
冷えたラジエーターに空気を送りこむと結露が発生します。空気中の水分が取り除かれるため冷却と同時に除湿効果も見込めそうです。
構造
仕組みを考えたところで次は構造を考えていきます。構造といっても非常に簡単なものです。
クーラーボックスに水と氷を入れ、ラジエーターとファンを取り付けます。あとは水をポンプで循環させラジエーターに通せばいいだけですね。
ラジエーターには結露が発生するため、空気の出口側ではなく、入口側にラジエーターを設置することにしました。
ラジエーターのフィン(目の部分)が水で詰まってしまうと風が通らなくなり、熱交換効率が悪くなるためです。
こうすることによって、重力とファンの風圧が結露によって発生した水をクーラボックス内に落としてくれます。
用意したもの
用意したものは、以下の通りです。
・ラジエーター
・フィッティングコネクター
・ファン
・ポンプ
・チューブ
・チューブバンド
・クーラーボックス
・発泡スチロール
・プラダン
ファンとポンプはどちらもUSBで駆動するものを選びました。
下準備
さあ作っていきましょう。
あらかじめラジエーターにフィッティングコネクタを取り付けておきます。
ネジと同じように回して取り付けます。
ラジエータは120mmのサイズのG1/4のものを購入しました。
フィッティングコネクターも同じG1/4の規格のものであれば、取り付けすることができます。
ラジエーターにファンを取り付けておきます。
付属のボルトで固定できます。ラジエーター側の安全カバーは取り外しました。
水冷式簡易クーラーの自作
今回使用するクーラーボックスは、BBQや旅行などでも使いたいので、クーラーボックス本体は加工しないことにしました。
外気温の影響を極力小さくするために、プラダンに発泡スチロールを重ね、クーラーボックスの蓋(天板)部分をつくります。加工したプラダンには、ラジエーターとファンをのせる予定です。
まずはプラダンをクーラボックスにピッタリ収まるようにカットします。ハサミとカッターで簡単に切れます。
ピッタリハマりました。次はファンとラジエーターを設置する部分に穴をあけます。
カットする場所を書き込みます。
カッターで切り抜きます。
うまく切り抜くことができました。
ラジエーターのホースの通る穴、ファンとラジエーターを固定するための穴をドリルであけます。
発泡スチロールをクーラーボックスのサイズにカットします。
先ほどカットしたプラダンに合わせてラジエーターやファンを設置する部分に穴をあけます。プラダンと発泡スチロールは両面テープで固定しました。
ファンやラジエーターをビスで固定する部分に発泡スチロールがかからないようにカットします。
ラジエータにチューブをつなぎます。片側はポンプにつなぎ、別の片側はそのままにしておきます。
チューブの脱落防止にチューブバンドを用意しましたが、不要だったかもしれません。
吸気、排気ともにファンを取り付けすれば、ほとんど完成です。
電源関係は延長コードのスイッチでON/OFFできるよう1つにまとめました。
改良点・改善点
プラダンと発泡スチロールを固定
両面テープだけでは、プラダンと発泡スチロールの接着が弱かったので、ボルト・ナットで固定しました。
蓋(天板)部分に取手を取り付け
氷を入れる際、蓋の開閉がしづらかったので取手を取り付けしました。発泡スチロールと一緒にワイヤー(針金)で固定していましたが、ボルト・ナットでの固定に変更しました。
吸気口と排気口を分ける
完成後、一度試運転をしました。氷はペットボトルに水を入れ、凍らせたものを使用しました。(500ml×2・1000ml×1)
設置前よりは確実に涼しくなりましたが、効果の程は想像よりもイマイチでした。
湿度・室温ともに少しずつ下がりましたが、これから真夏がやってくることを考えると十分ではないですね
冷却持続時間は1時間半程度でした。これは改良が必要です。
原因は以下だと推測しました。
・氷の量が少なかった。
・吸気口と排気口の距離が近すぎる。
・防音室内での空気の循環がない。
単純に氷の量が足りていなかったことは大きな原因ですが、吸気口と排気口の距離が近く、排気口から出た冷えた空気が、そのまま吸気口によって吸い込まれていました。
吸気口と排気口をプラダンと塩ビパイプで仕切ります。
隙間は両面テープで塞ぎました。
また防音室内の上部と下部で温度差が生じており、空気の循環も必要そうです。室内の下の方から排気を行ったため、冷気が室内の下部に溜まり、足元は涼しく、頭は暑いといったことが起こっていました。
冷気が上部から排出されるように配管をつなぎ、再度検証を行いました
自作水冷クーラーの効果
さて、気になる効果検証です。試作から少し時間が経ってしまいました。現在は夏真っ只中です。
30分おきに室内の気温と湿度を観測します。氷は1ℓのペットボトルを3本、500mlのペットボトルを3本用意しました。
クーラー動作前
室内にいるだけで汗ばんでくる暑さです。
30分後
気温が上昇していたので確認を行いました。
クーラーボックス内のホースが途中で折れており、水が十分に循環できていなかったことが原因だと思います。
1時間後
気温、湿度ともに下がりはじめましたが、思いの外、気温が下がりません。
再度クーラーボックス内を確認したところ、やはり水の流れが悪そうだったのでホースをカットして短くしました。
1時間半後
今度こそ気温が下がりました。体感でもクーラーの効果を感じることができます。
2時間後
湿度の下がらなくなってきました。気温は下げ傾向です。
2時間半後
湿度が上がり始めました。クーラーボックス内の氷はもうほとんどが溶けています。
3時間後
氷が完全に溶けていました。1ℓ3本、500ml3本のペットボトルでは持続時間は3時間で限界でした。
まとめ
結果は以下のようになりました。
クーラー動作前:31.7℃ / 48%
30分後:32.9℃ / 41%
1時間後:31.2℃ / 39%
1.5時間後:29.6℃ / 38%
2時間後:28.1℃ / 37%
2.5時間後:26.9℃ / 40%
3時間後:26℃ / 41%
室温は5℃、湿度は10%程度最大で下がりました。
スタート〜1時間ぐらいまでは、正しく水の循環が行われていなかったので、正しい検証結果とは言えませんが、涼しく感じる程度には冷却することができました。
〜後日談〜
今年の夏、車中泊に出かけた際、使用してみましたが、十分に効果を発揮してくれました。モバイルバッテリーを電源にしていたため、3時間ほどで途中で充電が切れてしまいましたが、氷は溶け切っておらず、少なく見積もっても4〜5時間程度は持つのではないでしょうか。(ペットボトルは1リットルを6本 / 車内には2名 / 窓は簡単に断熱)
さいごに
無事に防音室内にクーラーを設置することができました。
暑さからは卒業かと思っていましたが、思っていたよりも効果は良くなかったですね。防音室内に人がいなければ、それなりに冷えますが、人が入っているとなかなか冷えません。毎回氷と水を用意するのも面倒ですね。
とはいえ、あるのとないのとでは暑さが全然違いますし、かなりマシな録音環境となりました。また冷却と同時に除湿してくれているので、室温以上に涼しく感じます。
安価で簡単に作ることができるので防音室だけに限らず、狭いスペースを冷やしたいなら、オススメできるクーラーです。
防音室の製作は以下より