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↓制作風景はこちらから
(撮影してもらいました)
防音と材料
自作した防音室に一定の防音効果を期待するためには、設計や構造はもちろんですが、材料の選定が非常に重要です。
防音効果がある材料は多岐に渡りますが、材料それぞれに特性があり、適材適所となるよう、必要な効果に応じて、配置、設置する必要があります。
- 遮音
- 吸音
- 制振
材料と規格
板材や柱材などの材料には、それぞれ規格が存在します。規格を考慮しながら設計をすることで、無駄なく材料を使うことができ、最終的に制作コストを抑えることができます。
- 世界的な標準規格『メートル法(m)』
- 日本独自の規格『尺貫法』
世界的な標準規格は、『メートル法(m)』ですが、日本では『尺貫法』という独自の規格が用いることが多いです。尺貫法とは、長さや大きさなどを『尺』、『寸』などの日本の昔の単位を用いて表す規格です。建築現場の世界では、今でも日常的に使われています。
材料(特に木材)は、この『尺貫法』を基準とする大きさで製造・販売されていることが多いです。例えば『合板』は、1820×910の大きさが基本ですが、この中途半端なサイズは尺貫法が影響しています。1尺は303mmなので、1820×910は3尺×6尺であり、『サブロク板』とも呼ばれます。そのほかにも、壁中に入れる吸音材(断熱材)なんかも尺貫法に対応する大きさで作られていたりします。
設計をする際に尺貫法で設計をすれば、材料のロスは少なくすみます。
昨今DIYで人気のある2×4(ツーバイフォー)材は、『インチ』と『フィート』の単位で統一されています。
1インチは2.54cm、1フィートは30.48cmです。
材料の無駄が少なくすむ尺貫法ですが、大きなデメリットが存在します。それは、空間が『狭くなる』ことです。
尺貫法は昔に作られた規格、単位です。昔の日本人の身長や体型に合うようにつくられていますので、現代人にとってはどうしても狭く感じてしまいます。自作する防音室の用途や使用する方の身長等を考慮して設計をする必要があります。
- 尺貫法を意識して設計を行うとコストを抑えることができる。
- 尺貫法で設計を行うと、内部空間が狭く感じる。
構造材(柱材)
まずは柱として利用する材料から紹介します。防音室の骨組みを作る材料です。今回私が自作した防音室では、45mm角の荒材(米松垂木)を使用しています。
荒材
写真はプレーナー仕上といって、表面が滑らかになっているものですが、荒材とは、カンナ掛けがされておらず、表面が粗いザラザラした木材のことを言います。トゲやささくれがあるので、壁の内側や手で触らないところに使います。
住宅では屋根の骨組み(垂木)や床下など主に下地として使われています。表面加工をしていないため安価なものが多く、DIYでは重宝します。
SPF材(2×4材)
SPF材はDIYにおいて、最もメジャーな木材です。2×4材(ツーバイフォー材)とも呼ばれます。表面が滑らかでツルツルしており、価格も安価です。材質が柔らかいので加工も容易にできます。
SPF材のサイズは規格により統一されています。
■断面
1×2材:19mm×38mm
1×4材:19mm×89mm
1×6材:19mm×140mm
2×4材:38mm×89mm
■長さ(フィート(ft))
6フィート:約1820mm
8フィート:約2440mm
構造材(板材)
次に壁や床に貼る板材を紹介します。板材は音の振動を伝えないよう、できるだけ重い方が防音に対して効果的です。
木材系
まずは木材系から紹介します。木材の良い点といえば、加工が簡単であることです。DIYにおいて、加工が簡単であることは非常に重要です。なかなか自宅で金属を切断できる人はいないですからね。DIYで使いやすい木材系の材料は、大きく2種類に分類できます。
- 薄い板を何枚も貼り合わせたもの(合板)
- 木のチップを固めたもの(MDFなど)
合板
木材系で壁に使える材料と聞いて、真っ先に思いつく材料は『合板』ですが一口に合板といっても、たくさんの種類があります。
- ラワン合板
- ランバーコア合板
- 構造用合板
- コンパネ
- 床材に使うなら12mm以上
- 壁材に使うなら9mm以上
MDF
MDFとは、『Medium Density Fiberboard』の略です。粉状の細かい木材チップが原料でそれらを合成樹脂等で固めたもので、変形が少なく、品質が均一です。
『密度が高いため、防音に適している』と言われていますが、MDFは規格によって密度が大きく変わるため、一概に防音に適しているとは言えません。
ホームセンターで手に入るMDFはコスト優先で作られていることが多く、期待した効果を発揮しない場合があります。密度を指定して購入することも可能ですが、密度の指定ができる購入店も少なく、一般人が購入することは難しいです。オーディオ向けのMDFも販売されていますがコストが高いです。
MDFは小口から水分を吸収しやすいため、湿度や水、結露等には特に注意が必要です。また施工時はネジがとまりにくいため、ネジをとめる際はあらかじめ下穴をあけましょう。
パーティクルボード
パーティクル(パーチクル)ボードは、MDFよりも荒い木材のチップ(破片)を接着剤と熱で固めたものです。MDFよりも強度がありますが反りやすく、先端や角が割れやすいです。
MDFと断面を見比べると、木材チップの詰まり方(密度)が違うことが写真から比較できると思います。
OSB
OSBは『Oriented Stand Boad』の略で、大きな木材の破片を同じ方向に並べて固めたものになります。比較的安価で見た目的にも特徴的です。
一般的な合板と比較して、波を打ったような反りがあることが多く、湿気や水分には弱いです。
石膏ボード
遮音効果に優れているといわれる石膏ボードです。プラスターボード(PS)とも言います。
コスパに優れ、重量があり、防音室のDIYでは定番の材料です。施工性は木材に軍配が上がりますが、いくつかポイントを抑えれば、DIYでも十分に使用できます。
非常に割れやすいので、ぶつけて欠けや割れが発生しないよう、運搬時は特に注意を払う必要があります。
また廃棄する際は、産業廃棄物扱いとなり、普通に捨てれないだけでなく、処分にお金がかかります。せっかくつくった防音室をすぐに解体することはないと思いますが、頭の片隅に置いておきましょう。
壁材は木材と石膏ボード、どちらを選ぶか
今回の私が自作した防音室は木材を使用しました。防音、コストの観点から考えると石膏ボード使いたかったのですが、重さの関係、運搬の面で断念しました。
壁材として使用するなら石膏ボードは理想的な材料ですが、DIYにおいて問題となりやすいのは重量です。
一般的に住宅の床の積載荷重は、180kg/㎡以上となるように設計されています。制作前には重量も検討することが必要です。
壁材比重まとめ
防音室自作によく使用する材料の比重をまとめました。材料選定時の参考にしてください。
ラワン合板 | 0.6 |
シナランバーコア合板 | 0.4 |
ラワンランバーコア合板 | 0.4 |
針葉樹合板 | 0.6 |
MDF | 0.35〜0.8 |
パーティクルボード | 0.6〜0.7 |
OSB | 0.6〜0.7 |
プラスターボード | 0.9 |
※注意※
乾燥状態や使われている木材などにより、実測値は表の値に収まらない場合があります。あくまでも参考としてご覧ください。
透過損失について
遮音材の遮音性は透過損失で表します。透過損失とは、入射音と透過音の差です。
<出典>
http://kentikushi-blog.tac-school.co.jp/archives/37415563.html
透過損失が大きいほど遮音性に優れた材料であると言えます。遮音材を選ぶ場合はあわせて確認しましょう。
以下はラワン合板とPSの透過損失です。
(単位:dB)
材料名
|
周波数(Hz) | |||||
125 | 250 | 500 | 1000 | 2000 | 4000 | |
ラワン合板(6mm) | 11 | 13 | 16 | 21 | 25 | 23 |
プラスターボード(9mm) | 12 | 14 | 21 | 28 | 35 | 39 |
上記は単層の場合の数値となりますが、二重壁構造にすれば、遮音効果をもっと持たせることができます。
防音材
- 遮音材
- 吸音材
- 防振・制振材
遮音材
遮音材は『音を跳ね返す』目的で使用します。音を跳ね返すことによって、防音室内に音を閉じ込め外部に音が漏れないようにします。壁や床に使用する合板やプラスターボードも遮音材です。
防音室の制作では、より遮音効果を高めるために、遮音シートや鉛シートを重ねて使用します。シートに金属が含まれている鉛シートの方が遮音に対して効果的ですがコストが高く、DIYでは遮音シートを選択することが多いです。
遮音シート
遮音シートはゴムのような薄いシート状の遮音材です。音を跳ね返す目的で使用しますが、単体では防音効果はほとんど期待できません。
防音室では写真のように外側の壁と柱の間に挟み込み、防音室外に音が漏れないように配置します。厚みは1.2mmが多いです。もちろん厚みのあるものの方が遮音効果は増します。
鉛シート
DIYでは手の出しづらい鉛シートですが、遮音効果は遮音シートより遥かに期待できます。重量があり、1人で貼り付けすることは難しいです。
一般的な住宅における防音室制作では、床の耐荷重のことを考慮しなければならないため、なかなか選択することができませんが、できることなら使いたい遮音材ですね。
吸音材
吸音材とは「音を小さくする」働きがある材料のことをいいます。音の振動を熱に変換することで、音を小さくし、反響を抑えます。基本的に遮音材とセットで使用します。
防音室のDIYでは
・吸音材を壁中に入れ、防音をする
・壁表面に貼り付けて反響時間を調整する
大きく2つの目的で使用します。
グラスウール
比較的安価であるため、防音室を自作するに当たってよく使用されている材料です。ガラスを繊維状に加工し、それらを集めて綿のように加工しています。断熱材として住宅の壁や天井、床によく使用されています。
吸湿性が高く、水濡れは厳禁です。(住宅では透湿防水シートと併用し、湿気対策を施します。)グラスウールのような繊維系の吸音材は、壁の中で反響する音を吸収するために使用します。
グラスウールは低音域から高音域まで、幅広く吸音することができますが、密度によってその吸音効果は変化します。※密度は『k』で表します。(16k・32k・48kなど)
密度の低いグラスウールは、低音域において吸音効果が低いことがグラフから読み取れます。高密度のグラスウールを選択すれば、吸音効果は高まりますが、コストが増加します。
また施工する際は、手袋、マスク、ゴーグルなどの保護具の着用が推奨されています。グラスウールは目に見えないほど小さな繊維でできているため、素手で触るとチクチクしますし、吸い込む危険もあります。
ロックウール
ロックウールはその名の通り、石(玄武岩など)が原料です。グラスウールと同じく繊維系の吸音材です。鉱物からできているため、吸湿性はグラスウールの5分の1程度でグラスウールと比較して湿度に強いです。
こちらも低音域から高音域まで幅広く吸音することができます。価格はグラスウールよりも高価です。
密度による吸音効果は以下の通りです。(ロックウールはkg/m3での表示です。)
ロックウールは低い密度でも低音域の吸音率にあまり変化は見られません。グラスウールと比較して検討しましょう。
■グラスウールとロックウールの使い分け
低密度の材料では、中〜高音域に効果があるグラスウールと中〜低音域に効果があるロックウール。防音室を制作する場合はどのように使い分け、どちらを選択すればいいでしょうか。
大きな判断基準となるのは「予算」の関係ではないでしょうか。コストパフォーマンスの観点から見るとグラスウールに軍配が上がります。
タイルカーペット
床に敷くカーペットですがこれにも一定の吸音効果があります。価格やデザインで選んで問題ありません。
今回私は一般的なタイルカーペットを選択しましたが、より効果を期待したいなら防音仕様となっているものを購入するのも選択肢の1つです。
内装用吸音材
防音室内の反響を調整するために使用します。いい音響空間をつくるためには、本来、壁は平行に配置してはなりません。
コンサートーホールの壁は複雑な形をしていることが多いですが、これは反響や残響時間を綿密に計算した結果です。客席に最もいい音が届くように設計されているわけです。
平行に壁を配置すると平行に配置された壁同士で音が跳ね返り続けます。音が不明瞭で聞き取りづらいだけでなく、不要な残響音が発生するため、いい録音ができません。そういった現象を解消するために吸音材を壁表面に貼り付け、反響や残響時間の調整が必要となります。
防音室DIY定番のウレタン系の吸音材は貼り付ける際、一般的な接着剤ではうまく接着できません。タッカーなどで貼り付ける必要があります。
防振・制振材
防振や制振については材料で振動を防ぐというよりも、構造で振動を防いだ方が効果は遥かに高いです。床の防振対策については『浮き床』という構造が定番であり、振動対策には最適です。『浮き床』は擬似的に床を浮かせ、振動を階下に伝えにくくするものです。
メリットが大きい『浮き床』ですが構造が複雑となり、その分コストが高くなります。ドラム等の使用を想定しているなら対策は必須ですが、ボーカルやギターの録音程度では構造としての対策をせずとも問題ないでしょう。
防音・制振マット
今回、私が制作した防音室はボーカル・ギターの録音が目的であったため『防音・制振Dマット』というマットを引くだけにとどめました。
ピアノやドラムの使用など使用目的によってはしっかりとした防振対策が必要です。
さいごに
「構造はなんとなく理解できたけど、材料に関してわからない点が多い。」そんな声を多く頂きましたので材料について取りまとめました。お役に立てれば幸いです。
防音室のDIYにおいて材料選びはもちろん重要ですが、それ以上に設計段階での防音室の構造と制作時における隙間のない施工が重要です。